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弁護士上原尚貴が「民事訴訟のIT化対応について」を投稿しました

2022年8月29日

1 民事裁判のIT化について
  令和4年5月18日の参議院本会議で、賛成多数で改正民事訴訟法ⅰ(以下「新法」といいます)が可決・成立し、同月25日に公布されました。この背景には、平成30年に内閣官房「裁判手続等のIT化検討会」で検討結果を取りまとめ、民事訴訟のIT化を3つのフェーズで実施していくことが提言された後、コロナ下において急速に「Microsoft Teams」を利用したWeb会議による裁判手続(書面による準備手続期日)の利用が浸透したことから、一気に改正に向けた議論が進んだことがあると考えられます。
今回の改正により、弁護士や民事裁判手続を利用される皆様にどのような影響があるのか、本稿では、改正の目玉である「e提出」についてポイントを絞って解説していきます。
 

【改正のポイント】「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案
① e提出(eファイリング)
 ✔️ 訴状等のオンライン提出(オンラインによる民事訴訟の提起)
  →持参または郵送での提出の解消
 弁護士に委任する場合のみオンライン提出が義務化
 ✔️ システム送達(弁護士が代理人に就任する場合、届出義務化)
  →郵送によって訴状等を被告に送達するコストの解消
② e法廷(eコート)
 ✔️ ウェブ会議による口頭弁論期日の新設(新法87条の2第1項)
 ✔️ ウェブ会議による弁論準備手続期日の改正(新法170条3項)
 →双方不出頭でも争点整理が可能、遠方の裁判所への往復の時間と費用を解消
 ✔️ ウェブ会議による証人尋問(新法204条3号)
 →高齢者など出頭が困難な一定の場合に柔軟にWeb会議での尋問が可能
 ✔️ ウェブ会議による和解期日(新法89条2項)
 ✔️ 法廷審理期間訴訟手続期日(ファスト・トラック)(新法381条の2以下)
③ e事件管理(eケースマネジメント)
 ✔️ 訴訟記録の電子記録化(新法132条の12第1項)
→判決書の郵送による送達、訴訟当事者は事件管理システムにアクセスして訴訟記録の閲覧が可能
 

2 e提出(オンライン提出)
(1)現行法について
 既に電子情報処理組織による申立て等(現行法132条の10・オンライン申立て等)が可能であり、政府の提言もあり、裁判所は、「民事裁判書類電子提出システム」(通称「mints」)ⅱの運用を、一部の裁判所で開始しました。
 「mints」での提出は、現行法下でファクシミリ送信によって提出が可能な裁判書類(民訴規則3条1項・準備書面、書証の写し、証拠説明書など)に限られており、訴状、訴えの変更申立書等の手数料の納付が必要な書面等の提出は出来ません。
また、「mints」自体も、双方に訴訟代理人が付いている場合の利用に限られるほか、裁判所限りでのアップロードが出来ない点、アップロードファイルの削除が原則出来ない点、事務所職員の補助者機能がやや煩雑な点など、個人的には使い勝手の良さには疑問が残るところです。
 

(2) 新法によるオンライン提出
今回の改正により、現行法の準備書面等だけではなく、訴状のオンライン提出までもが可能になりました(新法132条の10)。これだけでなく、当事者が弁護士に訴訟活動を委任する場合、オンライン提出が義務付けられることになります(新法132条の11第1項1号)。
また、送達が必要なものについては、原則として書面によって送達することとされていますが(新法109条)、送達を受けるべき者が事件管理システムを使用してオンラインで行う送達(通称「システム送達」)を受ける旨の届出をしている場合には、システム送達が行われます(新法109条の2)。
弁護士が訴訟代理人に就く場合には、システム送達の届出が義務付けられることとなります(新法132条の11第2項)。
 

3 今後の運用について
オンライン化については、証人尋問を行う場合などウェブ会議で実施することを疑問視する意見もあり、法廷と同じように、反対尋問や弁論の全趣旨による心証形成が可能かは不安が残るところです。
今回とりあげた、オンライン提出義務については、「責めに帰することができない事由」があった場合、オンライン提出義務の適用を受けないこととされており、システム障害などが念頭に置かれていますが、システム障害の原因がすぐに特定できなかった場合にはどのように取り扱うのか審議会でも懸念が示されているところです。ⅲ
この点については、実務的にも、影響が大きいと考えられるところですので、今後の運用状況を注視し、改正民事訴訟法のスタートに備えたいと思います。
 

文責:弁護士 上原 尚貴
 
 

ⅰ「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)。公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日までの間に、順次施行されることとされています。
ⅱ「民事訴訟法第130条の10第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う督促手続に関する規則」(令和4年最高裁判所規則第1号)
ⅲ 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会「第20回議事録」17頁〔日下部委員発言〕(令和3年11月26日)

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