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弁護士中山明智が「令和4年10月1日施行の改正育児・介護休業法とは?『産後パパ育休』とは?」についてのコラムを投稿しました

2022年9月20日

1 はじめに

10年ほど前から、「イクメン」という言葉が流行し、育児は男女ともに携わっていくものへと変化しております。しかし、令和2年度の厚生労働省の統計によると、育児休業取得率について、女性は8割を超えている一方で、男性は12%強と、まだまだ男性が育休をとることは難しく、男女が均等に育児にかかわる機会が失われているのが現状です。その主な原因として、企業側が男性の育休取得に消極的であることが挙げられるため、まずは企業側の意識を変えることが課題とされてきました。

そのような社会問題を背景に、今年10月1日から改正育児介護休業法が施行され、現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい制度として「産後パパ育休」(出生時育児休業)を新設するとともに、企業側には育児休業関連の情報提供義務を課されることとなりました。今回は、その改正の要点についてご紹介いたします(なお、一部本年4月1日施行の改正育児介護休業法に関する記載も含みます)。
 

2 「産後パパ育休」(出生時育児休業)制度の新設

⑴ 制度概要

子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる「産後パパ育休」(出生時育児休業)制度が新設されました。これは従来存在した育児休業制度(原則として子が1歳になるまで休業できる制度)とは別個の制度です。労働者は、両方の制度を利用することができます。

産後パパ育休を利用中の労働者は、育児休業利用時と同様に、休業開始時の賃金の67%の育児休業給付を受けることができますし、社会保険料(被保険者本人負担分及び事業主負担分ともに)の負担の免除も受けることができます。

産後パパ育休を利用するには、原則休業開始日の2週間前までに事業主に申し出る必要があります。出産が予定日からずれ込んだ場合に、産後パパ育休開始予定日の繰上げ・終了予定日の繰下げ変更も可能です。また、産後パパ育休は、2回まで分割して取得することもできますし、労使協定を締結している場合に限りますが、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中に就業することも可能です(ただし、一定の就業日数を超過すると、育児休業給付の対象外となる可能性があるため、注意が必要です)。
 

⑵ 適用対象者

産後パパ育休を含む育児休業制度は、パートタイム職員や嘱託職員などの有期労働者を含むすべての労働者に対して、適用があります(有期労働者の場合、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日から6月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない場合の限り、適用対象となります。)。

ただし、労使協定を締結することで、雇用期間が1年未満の労働者、申出の日から8週間以内に雇用関係が終了する労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者を対象外とすることが可能です。
 

3 育児休業の分割取得及び育児休業開始日の柔軟化

従前、育児休業を分割して取得することはできませんでしたが、本年10月1日からは、育児休業を2回に分けて取得することができるようになります。また、1歳(1歳6か月)以降の育児休業について、他の配偶者と交代して育児休業を取得出来るように育休開始日に関する規制が緩和されました。

従前は、1歳もしくは1歳6か月の時点で、育児休業を取得するかどうかの選択を迫られ、他のタイミングでこれを申し出ることができない制度だったため、例えば、女性が子1歳時点で育児休業開始の申し出をして、男性が同時点で育児休業開始の申し出をしない場合、男性は、子1歳6か月時点まで育児休業開始の申し出ができず、同時点まで事実上女性の職場復帰の道が閉ざされてしまっておりました。しかし、配偶者が1歳(1歳6か月)以降の育児休業を取得している場合には、その配偶者の休業の終了予定日の翌日以前の日を育児休業開始予定日とできるようになります。そのため、例えば、女性が子1歳時点で育児休業を開始し、子1歳3か月時点で男性が育児休業を開始して、1か月間は夫婦で子育てに専念し、その後女性だけ子1歳4か月時点で職場に復帰するといった、夫婦に合わせた育児休業の取得が可能になりました。
 

4 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け

本年4月1日に施行済みの改正育児介護休業法により、事業者は、育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置を講じなくてはならなくなりました。

具体的には、次に掲げる措置のうち、2以上の措置を講ずる必要があります。

・ 雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施

・ 育児休業に関する相談体制の整備

・ 雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供

・ 雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知

・ 育児休業申出をした労働者の育児休業の取得が円滑に行われるようにするための業務の配分又は人員の配置に係る必要な措置

また、妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置を講ずることも義務付けられております。具体的な方法としては、①面談(オンライン面談を含む)②書面交付③FAX④電子メール等のいずれかでよく(ただし、③④については、労働者が希望した場合に限ります)、まずは、いずれかの方法で、育児休業・産後パパ育休に関する制度、育児休業・産後パパ育休の申し出先、育児休業給付に関すること、及び、労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱いといった事項について、説明しなくてはならなくなります。そして、当該申し出をした労働者に対して、育児休業等の取得の意向があるか否かについて確認することになりますが、意向確認を申し向けたのに労働者側から返事がないような場合でも、少なくとも1 回はリマインドを行うなど、取得の意向については慎重な確認が要求されることとなります。
 

5 最後に

労働者は、今回新設された産後パパ育休だけでなく、育児休業制度自体についても全く理解進んでいないのが現状です。事業主としては、今回の改正法の施行をきっかけに、就業規則などの諸規定を整備したり、必要に応じて労使協定の締結(産後パパ育休対象者、申出期限、休業中の就業)を検討しなくてはなりません。まだ対策されていない会社様は,ぜひ一度当事務所にご相談ください。
 

文責 中山明智

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