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弁護士佐野太一朗が「インドにおけるジョイントベンチャーについて」を投稿しました

2019年12月2日

インドにおけるジョイントベンチャーについて
 

1 インド出張
当職は,令和元年11月上旬,JV 案件のためにインド出張しました。そこで,海外展開を
前提とした JV,そしてインドにおける JV の特質について執筆させていただきます。

 
2 JV とは
まず,JVとは,いわゆる合弁事業を意味し,複数の企業が共同で特定の事業を立ち上げる
目的で設立されます。
もっとも,JV 契約は,合弁事業の内容,持株比率など案件ごとに修正するべき点が多いた
め,他の賃貸借契約といった契約類型ほど定型化されていない点に難しさがあります。

 
3 JV の問題点
JV を設立させるメリットとしては,①初期投資負担の軽減,②ランニングコスト分担によ
る負担軽減,③既存設備や既存販路の活用,④現地文化・制度に適した現地法人運営などの
点が挙げられます。
しかし,JV が当初の予測に反して機能しない場合も多く見受けられます。海外における合
弁企業の場合は,日本企業と現地企業との両方から経営陣が参画することが一般的です。こ
の場合,たとえ人数的には半々であっても,会社そのものが現地に位置するため,従業員も
必然的に現地人が多くなり,パワーバランスとしては現地企業のほうが強くなるケースが
多いといえます。
そのため,日本企業にとっては合弁先との関係がうまくいかず,合弁会社をガバナンスが効
かせられない場合もあります。
また,事業環境の変化に伴い,当初期待していた利益の獲得ができなくなり,残存している
地役をどちらが確保するのか,あるいは発生した損失をいずれの当事者が負担するかを巡
り,JV 当事者の間に緊張関係が生じることがあります。そして,経営がある程度軌道に乗
った場合であっても,日本企業と現地企業が,異なる経営方針を描き,経営の混乱を招くよ
うになり,合弁企業の経営が立ち行かなくなる場合も見受けられます。

 
4 インドにおける JV
まず,インドにおける外資規制は,1999 年外国為替管理法に基づく産業政策促進局の通達
によって細かく定められ,外国投資が禁止されている業種などが記載されています。JV は,
このような外資規制を回避するためにも有用な手段となり得ます。
そして,インドにおける会社の形態としては,株式有限責任会社,保証有限責任会社,無限
責任会社の3つがあり,また会社の種類としては,非公開会社と公開会社の 2 つに分類さ
れます。それぞれ設立手続きが異なりますので,注意が必要です。
 
(1)インドにおいて JV を設立するメリットとしては,上記の JV の一般的なメリットに
加え,ライセンス,対政府交渉力,販路開拓などの事柄が挙げられますが,土地の取得と労
務管理に焦点を当てたいと思います。
 
ア 土地の取得
まず,インドでは,日本とは異なり,土地又は建物ごとに一覧性を持った登記簿が作成され
るわけではなく,また不動産の物理的現況及び権利関係に関する情報が登記の対象として
登記簿に記載されるわけではありません。このように,権利関係が非常に不明瞭であること
から,工業用地など広大な土地の所有権を確立することは容易ではありません。またブロー
カーが介在した不透明な土地取引,政府分譲地の瑕疵などが報告されることも多く見受け
られます。
 
イ 労務管理
まず,インドでは,ワークマンとノンワークマンとの区別が必要となります。そして,イン
ドでは英国からの独立後,社会主義政策を布いていたため,インドの労働法制は労働者保護
的で,国による規制的側面が強いという特徴があります。また,インドは,28 の州と 7 の
連邦直轄領から成る連邦国家ですが,労働法については連邦・州がともに立法権限を有して
いるため,複層的な行政システムを確認する必要があります。
 
(2)次に,日本企業がインド企業との付き合いでは,コストを引き下げることや利益を出
すことへの相手側の執着に戸惑うことも少なくありません。
技術や品質を目当てに日本企業へアプローチしてくるインド企業も,比較的短期に利益を
生み出せない状況に置かれると,技術や品質もコスト要因の一つと見なし,態度を硬化させ
る傾向が見られます。
また,日本人駐在員を派遣する場合には,年間2000万円/人程度のコストが発生するこ
とが予想され,現地企業から,出向する日本人の給与が高いと指摘されることが予想されま
す。現地企業からこのような指摘を受け,日本人を帰国させるケースもありますが,パワー
バランス確保のため,日本人駐在員を維持させるべきと考えます。
この点,合弁事業の創成期において,日本人駐在員は財務・労務など複数の役を兼任してい
ることが多いため,現地側に日本人駐在員の重要性を理解させる必要であります。
 
5 当事務所における JV
当事務所では,豊富な経験を通じて蓄積されたノウハウをいかし, JV に関する契約作成,
合弁先との紛争処理など JV の設立・運営,そして解消に至るまでの段階において効果的な
アドバイスを提供いたします。
 
以上
 
(文責 弁護士 佐野太一朗)

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