ニュース

弁護士佐野知子が「有期労働契約の更新について,年齢による上限を設けることは適法か」を投稿しました

2018年11月5日

有期労働契約の更新について,年齢による上限を設けることは適法か。
 
1. はじめに

平成30年9月14日,最高裁判所は,有期労働契約の更新に年齢による上限を設けるいわゆる「上限条項」による雇止めにつき,これを適法とする判断を示しました。

有期労働契約については,平成25年の労働契約法の改正に伴い,同一の使用者との間で2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えた労働者に,無期転換権が付与されることとなり,各社ともその対応に追われましたが,今後もこの制度のもと,有期労働契約をどのように有効に活用するかは,企業の労務管理にとって,非常に重要な問題です。

本件雇止めは,労働契約法改正以前になされたものですが,有期労働契約のあり方,高齢の従業員の処遇のあり方を考えるうえで参考になりますので,以下ご紹介します。

 
2. 日本郵便(期間雇用社員雇止め)事件(最判平成30年9月14日)

(1) 事案の概要

郵便事業株式会社(旧郵政公社からその業務を引き継いだ承継会社の一つ。平成24年,同じく承継会社であった郵便局株式会社と合併し,日本郵便株式会社に商号変更。以下,たんに「会社」といいます。)は,当時勤務していた有期労働者ら9名(以下,「労働者」といいます。)に対し,「満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは,それ以後,雇用契約を更新しない。」との就業規則(平成19年10月1日制定)に基づき,雇止めとしました。

労働者側は,①本件有期労働契約の更新手続きは形骸化しており,事実上無期労働契約と同視できる,あるいは,②上限条項は,そもそも合理的な労働条件とは言えないなどの理由から,雇止めは無効であるとして,会社に対し,雇用契約上の地位確認並びに未払い賃金の支払い,精神的苦痛に対する損害賠償の支払いを求めて訴訟を提起しました。

以下では,最高裁の判断を中心に検討します。

(2) 最高裁の判断

ア. 最高裁の考え方

本件雇止めの有効性を検討するにあたり,まず最高裁は,会社が,有期労働契約締結・更新の際は,労働条件を示した書面を交付していたこと,雇用期間満了前1か月程度になった時点で,期間満了予告通知書を交付していたことなどを指摘して,契約更新が形骸化していたとの主張を退けました。

その上で,最高裁は,「上限条項」という労働条件が,労働契約の内容となっているかを,労働契約法7条に照らし,その合理性と周知性について審査しています。

以下,判旨に沿って検討します。
 
イ. 上限条項を設けることに合理性はあるか。

最高裁は,以下のような事情から,上限条項を設けることに合理性があると判断しています。

① 業務の内容

期間雇用社員が従事する業務は,屋外業務や立った状態での作業,機動車の乗務や機械操作などで,「高齢の期間雇用社員について,屋外業務などに対する適性が加齢により低減し得ることを前提に,その雇用管理の方法を定めること」は不合理とは言えない。

② 一律に就業規則で定めることの必要性

事業規模などに照らして,加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく,一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。

③ 高年齢者等の雇用の安定などに関する法律に抵触しない

高年齢者等の雇用の安定などに関する法律が,定年を定める場合には60歳を下回ることができないとし,65歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けており(8条,9条1項),本件上限条項はこれに抵触しない。

④ 無期雇用社員とのバランス

無期雇用社員の定年が満60歳とされ,定年退職後に継続して就労する者は,老齢再雇用社員就業規則に基づき,雇用期間を1年として再雇用しこれを更新することとしているが,こちらの社員についても,満65歳に達した日以後の最初の3月31日が到来したときには,有期労働契約の更新を行わない旨定めている。
 
ウ. 上限条項を含む就業規則は,十分に周知されているか。

最高裁は,以下のような事情から,上限条項を含む就業規則は十分周知されていると判断しています。

① 就業規則制定時,その案文を製本した冊子を,各事業場において職員が自由に閲覧することができる状態に備え置き,組合等に対し,就業規則の制定について意見を聴取する手続きを行った。

② 特に,上限条項の適用開始時については,労働組合側から開始時期の延期を申し入れがあり,旧郵政公社側はこれを受け入れ,就業規則制定後3年経過したのち実施するとした当初の予定を,さらに6カ月延期して実施したこと。

③ 本件上限条項の適用を最初に受けることになる期間雇用社員に対し,「本件上限条項により契約を更新しない取扱いは,正社員の定年や高齢再雇用社員との均衡,加齢に伴う事故への懸念を考慮したものである」旨を記載した書面を配

布して,その内容を説明したり,各事業場の掲示板に掲示したり,ミーティング等で社員に説明したこと
 
エ. その他

本件で,東京高裁は,旧郵政公社には非常勤職員の任用期間に制限がなかったことから,上限条項の設置を就業規則の不利益変更ととらえ,その合理性を判断しました。これに対し,最高裁は,旧郵政公社と会社の間で労働条件の承継はなかったとして,本件を就業規則の不利益変更の問題としてはとらえませんでしたが,判旨の中では,①旧郵政公社には任用期間の制限はなかったことをもって,旧郵政公社の非常勤職員が,旧郵政公社に対し,満65歳を超えて認容される権利または法的利益を有していたとは言えない,②上限条項の適用開始を3年6か月猶予して,期間雇用社員に対して,相応の配慮をしたこと等を指摘しており,これらの事情も踏まえると,仮に本件を不利益変更の問題としてとらえたとしても,その変更には合理性があるという結論が導けそうです。
 
3. おわりに

労働契約法改正から5年を経過し,無期転換権を行使する労働者が散見されるようになりました。企業の中には,有期労働社員,無期雇用社員,有期労働から無期転換権を行使した社員など,多様な社員が混在しているのが現状です。多くの企業は,平成30年4月の無期転換権行使を念頭において就業規則の改訂を完了させているかと思いますが,中にはこれからという企業もあるでしょうし,改訂してはみたもののどうも使い勝手が悪いという企業もあるかと思います。

就業規則の改訂・制定は,どの企業にとっても頭の痛い問題ですが,判例の中には,就業規則の改訂・制定を合理性をもって実施する手がかりがありますので,ぜひ参考にしていただければと思います。

以上

 
 
(文責 弁護士 佐野知子)

ページのトップへ