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弁護士國吉宏明が「クレーム対応 きほんのき」を投稿しました

2018年4月2日

「クレーム対応 きほんのき」

1 はじめに
先般,厚生労働省が,顧客による暴言や脅迫などの悪質クレーム対策の検討に着手したという報道がありました。クレームは品質やサービスを向上させるために有益な情報を含む場合もありますが,社会通念上許される範囲を超えて行われる悪質クレーム(土下座の強要,長時間・多数回の電話など)は,労働者がストレスを抱えて精神疾患を発症する原因になるなど,社会問題化しています。消費者の権利意識の高まりもあってか,こうした悪質クレームは増加傾向にあり,当事務所でも,多くの企業や学校から,クレーム対応研修やマニュアル作成,個別のクレーム対応案件などのご相談・ご依頼を頂いています。
そこで,今回のコラムでは,「クレーム対応きほんのき」と題して,クレーム対応の基本プロセスをご紹介したいと思います。

2 クレーム対応の基本プロセス
クレーム対応の基本プロセスは,①聴き取り,②事実の調査・確認,③方針の決定,④回答,⑤(回答で事態が収束しない場合の)外部対応です。
 通常のクレームも悪質クレームも,基本的にはこの5段階のプロセスに従って対応していけば,クレームが泥沼化するリスクを最小化することができるはずです。
 このプロセスを実践する際の注意点としては,①常にどの段階にいるのかを意識し,その段階ですべきことを徹底して行うこと,②対応窓口は一本化しつつ,担当者任せにはせずに組織的に対応・判断すること(情報共有の徹底),③全ての段階を通じて,相手方への対応は務めて真摯かつ丁寧に行うことなどが挙げられます。
 まず,①聴き取りの段階では,クレームの内容,被害・損害の内容・程度,資料・根拠の有無,要望等を聴取します。時系列や5W1Hを意識して聴き取りを行い,必ず聴取メモを作成します。正確に聴取メモを作成するためにも,聴き取りは複数人で行う必要があります。この段階では,相手方の主張・要望の妥当性を検討したり,反論や回答をしたりする必要はありません。聴き取った内容は,書面にまとめて記録化し,情報を共有することをルール化しましょう。この記録には事実を記載し,聴取者の印象や感想は記載しません。面談の際,相手方が粗暴な言動をとることが予想される場合には,録音・録画も検討してください。面談の場で回答することを求められないよう,面談には,決定権者を同席させないようにすることも重要です。
 次に,②事実の調査・確認の段階では,クレームの対象となっている人や物,場所の調査・確認を行い,その結果を書面に記録化します。事実の調査・確認をしっかり行わないと,議論がかみあわず,良い対応方針も出ませんし,後に新たな事実が判明して方針が二転三転し,泥沼化する危険性もあります。また,仮にこちらに問題があった場合に再発防止策を講じることもできませんので,このプロセスは極めて重要です。事実の調査・確認を徹底して行うことで,判断の合理性を担保するという意味もあります。どのような事実があったかの認定は組織的に,社会常識に基づいて行うことになりますが,当事者の言い分が食い違っている場合など,事実認定に迷う場合には,弁護士などの専門家に助言を求めるとよいでしょう。
③方針の決定では,②で調査・確認した事実関係をもとに,組織として,回答や対応方法などを検討します。この時に検討するのは,法的責任の有無及び範囲です。仮にこちらに何らかのミスがあったとしても,相手方に損害が発生していない場合や,こちらのミスと相手方に発生した損害に因果関係がない場合には,こちらに法的責任はありませんので,原則として相手方の要求を拒絶することになります。
④では,③で決定された内容・方法で回答を行います。回答の際は,相手方の納得を目指して説明を行い,納得が得られれば,合意書等の書面を作成して合意内容を明確化し,後日紛争が蒸し返されることを防止します。仮に納得が得られない場合でも,質的・量的に通常要求されるレベルの説明を尽くしていれば,すべきことは行ったと判断して対応を終了します。回答は,書面を送付して行うことが望ましく,書面を送付しておけば,その後再連絡があった場合でも,「回答は○月○日付書面のとおりで結論に変更はない。これ以上対応はできない。」という対応が容易になります。
一方,④で回答し,対応を終了したにもかかわらず,相手方が継続的に電話をかけてきたり,面談を求めてきたりする場合があります。業務に支障がない場合には,「○月○日付書面のとおり。」という対応で処理できますが,異常に多数回・長時間の架電・面談などの業務妨害行為や,脅迫的な言動や暴力などの犯罪行為の場合は,弁護士への委任や警察への相談という,⑤外部対応が必要になります。
弁護士に対応を委任した場合,対応窓口を弁護士に移し,まずは相手方に対して弁護士名の書面で警告を行うことが一般的です。それでもクレームが止まない場合,長時間の架電や面談強要の事案であれば,架電禁止・面談強要禁止の仮処分,損害賠償を執拗に請求されている事案であれば,債務不存在確認請求訴訟という法的手段をとることが考えられます。また,脅迫的な言動や暴力などがある事案であれば,警察への告訴・告発を行うことも考えられます。顧客などに対して法的措置をとることは簡単な決断ではないかもしれませんが,悪質クレームに対しては毅然とした対応をとり,企業・学校の秩序や従業員・教職員,他の関係者を守ることも重要です。
法的措置をとる場合,面談の記録や電話の録音などで相手方の言動を証拠化しておくと,迅速な対応が可能になります。万一の場合に備えて,電話でのクレーム対応は録音機能が付いた電話で行うなど,ルールを設け,クレーム対応の記録を残しておくことが望ましいでしょう。

3 最近の悪質クレームの特徴とその対応方法
スマートフォンが普及したこともあり,最近は,面談中などに写真や動画を撮影して,動画投稿サイトやSNSに公開するという手段をとるクレーマーもいます。コメント欄に,企業・学校や従業員・教職員に対する誹謗中傷が書き込まれる場合もあります。
写真や動画を撮影されていることに気づいた場合,肖像権や施設管理権(企業・学校の施設内での面談の場合)を根拠として撮影を拒絶することが考えられます。また,写真や動画が公開された後に気づいた場合には,肖像権侵害等を理由として当該サイトに対して削除要請をすることや,その内容が名誉毀損に当たる場合には刑事告訴を行うことも考えられます。

4 終わりに
 今回ご紹介した基本プロセスは,あらゆるクレーム対応に適用できる基本中の基本であり,クレームの泥沼化を防ぐための鉄則ともいえます。クレーム対応に悩まれている企業・学校などの担当者の皆さまにご参照頂き,お役に立てて頂ければ幸いです。

(文責 弁護士 國吉 宏明)

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