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弁護士國吉宏明が「株主総会の最新動向」を投稿しました

2019年5月10日

「株主総会の最新動向」

1 はじめに
大型連休も終わり,株主総会が集中する6月が近づいてきました。そこで,今回は最近の株主総会の動向をご紹介したいと思います。
昨年(平成30年)に開催された株主総会は,世界景気の回復や為替相場の円安など外部環境が好転したことに加え,構造改革に取り組んだことで,商社等の非製造業に加えて電気機器・自動車等製造業の健闘が目立ち,多くの会社が最高益更新という好決算の中で開催を迎えました。
昨年は,平成30年6月に改訂されたCGコードをはじめ,新しく施行されたフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」といいます。)への対応という問題が新たに生じました。特に,改訂されたCGコードについては,「投資家と企業の対話ガイドライン」とともに,コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくことを狙いとしているため(商事法務研究会編「株主総会白書2018年版」旬刊商事法務2184号(以下「株主総会白書」といいます)9頁,16頁),今後の株主総会運営に大きな影響を及ぼすことはほぼ間違いないとされており,十分な理解と準備が必要になると考えられます。
 
2 総会開催時期に関する動向
商事法務研究会が上場会社を対象に毎年実施している調査でのアンケート結果(平成30年度。以下「本アンケート結果」といいます。)によれば,月別の開催状況では,相変わらず6月開催に全体の72.3%が集中していますが,3月開催が前年に引き続き増加し,2557社中253社と全体の1割に近づいたのをはじめ,分散化の動きがみられます。
また,本アンケート結果によれば,総会の開催日時の決定に関する判断要素として重視して決定している事項としては,上位3項目の順位が「決算・招集手続の関係を考慮」(回答会社全体の57.5%),「集中日をできるだけ避ける」(同45.8%),「会場の都合考慮」(同27.1%)となっています。
3月開催の増加は,IFRS(国際財務報告基準)が,連結決算における親会社と子会社の決算期統一を,日本基準より厳しく求めていることなどによるものと考えられ,従来の極端な6月総会指向の低下が見られます。
なお,CGコード(補充原則1-2③における「株主総会関連の日程の適切な設定」)を意識して,「集中日をできるだけ避ける」との回答は,前々年(9.1%増),前年(1.9%)と増加していましたが,本年は0.8%の減少に転じ,頭打ちとなりました(株主総会白書16頁,30頁)。
 
3 出席株主の減少傾向
アンケート結果によると,近年出席した一般株主が増加する傾向が続いていましたが,前年よりも出席株主数が「減少した」と回答した会社は全体の43.5%(前年比6.7%増)で,昨年よりも「増加した」と回答した会社は全体の34.7%(前年比6.6%減)でした。
本年は,全体として減少した会社数が増加した会社より多くなっており,前年までに一服感がみられた出席者数の増加傾向は,いよいよ止まったと評価されています。お土産廃止の増加も,その一因と考えられています。
なお,アンケート結果では,資本金が「20億円超」の会社において,特に減少傾向が顕著にみられました(株主総会白書118頁以下)。
 
4 総会運営の電子化
平成30年6月までに定時株主総会を実施した会社において,Web開示(株主総会において書面による議決権の行使等を行う際に提供が義務付けられている株主総会参考書類の一部をインターネットで開示することによって提供されたものとみなされる制度)がなされた会社は,平成29年より6.7%増加し,72.8%に達しました。
増加の原因としては,平成26年改正会社法で,ウェブ開示対象書類の範囲が拡大され,会社にとっての使い勝手が一段と増したことや,実施した会社において,株主からのクレームがあったとの情報が特段なかったこと,そしてなにより,個人のインターネット利用が普及し,デジタルデバイドの問題を抱える株主が減少したことなど,会社がウェブ開示を実施しやすい環境が整ってきたことが挙げられます(株主総会白書60頁以下)。
 
5 株主提案権・動議の行使内容
(1) 株主提案権行使の概況
平成29年7月から平成30年6月に行われた株主総会においてなされた株主提案は,前年と比較して,会社数で4社・提案件数で3件増加し,56社,62件でした。そのうち9社・13件は,半ば恒例化している電力会社における株主提案です。また,株主提案権行使事例のうち,可決されたのは合計4社であり,前年の2社から増加しました。
このほか,株主提案権が行使されたものの,取下げが確認されているものが4社,撤回されたものが2社あったことが確認されています(株主総会白書16頁以下)。
 
(2) 役員の選任・解任を内容とする株主提案権の行使状況
株主提案権のうち経営権の争奪を含む役員の選任・解任を内容とする株主提案は,前年の調査結果である22社から25社へと増加しています。
これらの株主提案のうち,4社では株主案が可決されており,提案の内容はいずれも取締役の選任決議案でした。
役員の選任・解任を内容とする提案内容の内訳は,取締役選任議案が15社(監査等委員である取締役2社含む),監査役選任議案が2社,取締役解任議案が10社,監査役解任議案が4社となっており,解任議案が多いのが特徴でした(株主総会白書22頁)。
 
(3) 株主提案権行使の働きかけの状況
株主提案権の働きかけ(実際には株主から提案権行使として総会に付議されるに至らなかったものも含む)が「あった」と回答した会社数は36社(全体の2.1%)であり,前年の調査から2社減少しています。提案内容をみると,「定款変更」と回答した会社が21社,「取締役の解任」が9社,「剰余金の処分」が7社,「取締役選任」が4社となっています(株主総会白書59頁以下)。
 
(4) 総会当日の動議の状況
株主総会当日に動議が提出された会社は,前年と同数の26社(全体の2%)でした。
最も多い動議の内容は,議案の修正動議の17社(前年15社)であり,以下,議長不信任の動議の9社(前年7社),議事進行に関する動議の6社(前年7社)と続いています。
また,総会屋やクレーマー,大声で騒ぐ特殊な株主等に対して警告を発した後に退場を命じた会社は10社であり,前年の7社から増加しています。
これらの動議,退場命令の件数の減少は,特定の株主の出席動向に影響を受けた面があったとされています(株主総会白書100頁以下)。
 
6 株主総会決議取消訴訟等
平成29年11月から平成30年10月までの間に係属していた株主総会決議の取消訴訟等は3件であり,同期間中に新たに係属した訴訟はありませんでした(株主総会白書22頁)。
 
7 総会屋等の動向 -活動実態・利益供与事件
総会屋の活動は近年弱まりつつあり,平成20年に約310人と把握されていた総会屋の数は,平成29年末時点では約220人と公表されています(警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「平成29年における組織犯罪の情勢」9~10頁)。しかし,平成30年の上半期における総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙人員は41人,検挙件数は30件であり,依然として暴力団構成員等の反社会的勢力が,企業や行政に対して威力を示すなどして,不当な要求を行っている実態がうかがえると指摘されています(警察庁組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課「平成30年上半期における組織犯罪の情勢」18頁)。
そのため,完全にその活動がみられなくなったわけではなく,特に東京都内では活発に活動している者もいることから,引き続き,株主総会の運営において警戒が必要と考えられます。
なお,企業等の経営内容や役員の不正等に付け込んでくる会社ゴロ等は,平成29年末時点で,約870人となっており,こちらはここ10年緩やかな減少傾向となっています(前掲「平成29年における組織犯罪の情勢」9~10頁)。
 

(文責 弁護士 國吉宏明)

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