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弁護士新居裕登が「性の多様性と学教教育現場に求められる配慮について」を投稿しました

2020年1月15日

性の多様性と学教教育現場に求められる配慮について
 

1 はじめに

2019年12月2日,横浜市がパートナーシップ証明制度を導入し,全国で30の自治体が同制度を導入するに至りました。パートナーシップ証明制度とは,同性カップルなどに対して,二人のパートナーシップが婚姻と同等であると承認し,自治体独自の証明書を発行する制度であり,2015年11月5日に初めて,東京都渋谷区及び世田谷区にて実施されました。

我が国における性多様性への理解は進んでおり,2018年10月に株式会社電通電通グループにより実施されたアンケート調査では,LGBTがいわゆる「性的マイノリティ」の総称であると「知っている」「何となく知っている」と回答した人は68.5%となっており,15年の調査より30.9%も上昇しております(出典:「LGBT調査2018」電通ダイバーシティ)。

今後,性多様性への理解と配慮は,自治体や企業のみならず,児童生徒間の関係性が濃密である学校教育現場においても必須のものといえます。そこで,本稿では,主に教育現場における性多様性に対する適切な配慮について,文科省の通達及び調査等を基に検討してみたいと思います。
 

2 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の成立と文科省による通知等

⑴ 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

平成15年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し,平成16年7月より施行されました。

同法においては,「『性同一性障害者』とは,生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず,心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」と定義されており(第2条),性別の取扱いの変更の審判や(第3条),それを受けた者に関する法令上の取扱いなどが規定されています(第4条)。
 

⑵ 学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査

文科省は,平成26年6月13日,「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査について」と題する調査結果を公表しました。背景には学校における性同一性障害に係る児童生徒への支援に対する関心の高まりがあったものと思われます。

同調査では,性同一性障害と児童生徒本人又は保護者が自認している生徒に対する教育相談や特別な配慮等について調査が実施されました。報告のあった件数は606件(但し,任意で回答した生徒のみ対象)に昇り,うち小学校低学年が4.3%,小学校中学年が4.5%,小学校高学年が6.6%,中学校が18.2%,高等学校が66.5%であり,特別な配慮を実施している学校数は総数の約6割でした。

また,特別な配慮として,「自認する性別の制服着用を認める」「職員トイレ・多目的トイレの使用を認める」「自認する性別に係る部活動への参加を認める」など,多岐にわたる対応が採用されています。

他方で,他の児童生徒や保護者に知らせていない児童生徒の数は総数の6割との調査結果となっています。

ゆえに,特別な配慮を実施する際には,当事者である児童生徒や保護者の秘匿しておきたいとの意向がないか十分に配慮し,導入すべき適切な対応方法を個別具体的に検討する必要があるといえます。
 

⑶ 性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について(平成27年4月30日児童生徒課長通知)

さらに文科省は,上記の調査結果を基に,性同一性障害に係る児童生徒に特有の具体的な配慮事項をとりまとめ,また性同一性障害に係る児童生徒だけでなく「性的マイノリティ」とされる児童生徒に対しても相談体制の充実を促すことを目的とした,「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」との通知を公表しました。

同通知においては,性同一性障害に係る児童生徒についての特有の支援として,「学校における支援体制」「医療機関との連携」「学校生活の各場面での支援」「卒業証明書等」「当事者である児童生徒の保護者との関係」「教育委員会等による支援」といった各項目ごとに,適切とされる取組方法が具体的に記載されています。

例えば,「教育委員会等による支援」については,「性同一性障害に係る児童生徒やその保護者から学校に対して相談が寄せられた際は,教育委員会として,例えば,学校における体制整備や支援の状況を聞き取り,必要に応じ医療機関等とも相談しつつ,「サポートチーム」の設置等の適切な助言等を

行っていくこと。」といった具体的な取組方法が提示されております。
 

3 おわりに

今後,学校教育現場においては,性自認や性的試行の多様性へのあるべき配慮として,性同一性障害に係る児童生徒やLGBTQ+といった性的マイノリティに含有される児童生徒に対し,偏見等を排除しさらなる理解の深化が必要となります。上記に掲載した文科省の通知等を指標とし,児童生徒の個別の事情に配慮した具体的な取組が望まれます。
 
 

(文責 弁護士 新居裕登)

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