ニュース

弁護士木村康介が「所有者不明土地に関する法整備について」投稿しました

2022年5月20日

1 はじめに

近年、わが国の不動産を巡っては、いわゆる所有者不明土地の扱いが大きな問題となってきましたが、この問題を解消すべく、令和3年4月28日から新たな2つの法律が公布されました。本稿では、この法整備の概要について確認していきたいと思います。
 

2 所有者不明土地の定義・背景・問題点
(1)定義

 そもそも、所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、又は所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地のことを指します。

(2)背景

 このような所有者不明土地は、主に土地の所有者が死亡し、その相続が発生した場面において、以下のような事情を背景に生じます。すなわち、

 ・我が国においては、相続登記の申請が義務化されておらず、申請を積極的に行うインセンティブに乏しいこと。

 ・都市部への人口集中や高齢化の進展等により土地の所有意識が希薄になり、また土地利用の需要も低下していること。

 ・遺産分割未了のまま相続が繰り返されて土地共有者がねずみ算式に増加し、誰が共有持分を相続したのか正確に把握できない場合があること。

等によって発生するものと考えられます。

(3)問題点

所有者不明土地は、

 ・管理がされないために廃墟化し、治安悪化や獣害の助長等を招く。

 ・公共事業や復興事業等の妨げになり、限られた資源である土地の利活用を阻害する。

といった悪影響があるため、速やかに解消することが望ましいものです。ところが、不明となっている所有者・共有者の探索には多大な時間と費用が必要で、土地の管理・利用に必要となる共有者の合意形成を行うことが困難であるという問題があります。

 高齢化の進展に伴い、今後、土地所有者の死亡に伴う相続の発生増加が予想されることを考えると、この問題の解決は我が国における喫緊の課題と言えます。
 

3 今回の法整備の内容

 以上のような状況を受けて、今回成立・公布されたのが、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)と「相続等により取得した土地所有権の国庫の帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)の2つです。

 これらの法律は、将来の所有者不明土地の発生予防と、既に生じている所有者不明土地の利用の円滑化を目的として、①不動産登記制度の見直し、②相続土地国庫帰属制度の創設、③土地利用に関連する民法の規定の見直しの3つのポイントから、この問題を解消しようとするものです。以下、それぞれの内容を確認していきます。
 

4 不動産登記制度の見直し

相続又は遺産分割で不動産を取得した者に対し、その取得を知った日(遺産分割の場合は、遺産分割の日)から3年以内にその旨の登記の申請をすることを義務付け、正当な理由のない申告漏れには10万円以下の過料を科すこととされました。

これに合わせて、この義務を簡易に履行できるよう、相続人申告登記(相続人が、登記名義人の法定相続人であることを申し出るもので、これにより申請義務を履行したものとして扱う)の新設、登記手続の費用負担軽減策の導入や所有不動産記録証明制度(特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行し、相続登記が必要な不動産の把握を容易にするもの)の新設が行われました。更には、所有権の登記名義人に対し、住所変更登記の義務化(正当な理由のない申告漏れには過料の制裁あり)及び登記官の職権による住所変更登記を認める等の整備も行われました。
 

5 相続土地国庫帰属制度の創設

民法は、第239条第2項において「所有者のいない不動産は、国庫に帰属する」と規定しています。もっとも、私人が所有する土地を放棄してこの条文を適用できるかについては、判例・学説共に否定的な見解が従来有力です。裁判例には、原則として不動産所有権の放棄は自由であるとしつつも、放棄が公序良俗違反や権利濫用に当たるとして、実質上これを制限するものが見られ(東京高判昭51.4.28判タ340号172頁等)、登記実務上も、放棄の登記は国と共同申請する必要があり、したがって国の同意が必要であるとの見解が示されています。学説上も、私人が土地所有権を放棄することは、国へ一方的に管理の負担を押し付けるのと同義であり、原則として認められないとの見解が有力に主張されてきました。

しかしながら、土地利用ニーズの低下や管理費用の負担回避のため、土地を手放したいと考える者が近年増加していることも事実です。そこで、今回の法整備では、一定の要件を満たした場合には、相続又は相続人への遺贈により取得した土地を国庫に帰属させることを可能とする制度が新設されました。

具体的には、対象となる土地が、通常の管理または処分をするに当たり過分の費用または労力を要する土地(建物や通常の管理・処分を阻害する工作物等がある土地、土壌汚染や埋設物がある土地、崖がある土地、権利関係に争いがある土地、担保権等が設定された土地、通路など他人によって使用される土地等)に該当しないことについて、法務大臣による審査・承認を経た後、当該土地の標準的な管理費用の10年分の負担金を納付することで、国庫への帰属が完了する仕組みとなっています。
 

6 民法の規定の見直し

 民法の規定の見直しについては、大きく財産管理制度の見直し、共有制度の見直し、相続制度の見直し、相隣関係規定の見直しの4つの視点から整理することができます。

(1)財産管理制度の見直し

従来の財産管理制度は、人単位でその者の財産全般を管理する発想で制度が設計されており、不動産の管理が十分になされない可能性のあるものでした。そこで、この度の法整備では、裁判所が管理命令を発して、個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した管理人を選任するという新たな管理制度が創設されます。また、所有者は判明しているものの、その者が所有不動産を管理せずに放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合にも、管理人の選任が可能になります。

(2)共有制度の見直し

不明共有者がいる場合、共有者間における意思決定や持分の集約が困難になってしまうことは既に述べたとおりです。これを防止するため、裁判所の関与の下、不明共有者に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を行える制度が創設されます。また、裁判所の関与の下で、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭を供託することで、不明共有者の持分を取得して不動産の共有関係を整理・解消する仕組みも創設されます。

(3)相続制度の見直し

長期間放置された後の遺産分割では、具体的相続分に関する証拠等が散逸し、共有状態の解消が困難になることも少なくありません。これを解消するべく、相続開始から10年が経過したときは、個別案件毎に異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みが新設されます。

(4)相隣関係規定の見直し

従来の民法には、ライフラインの導管等を隣地等に設置することについての根拠規定がなく、土地の利用が阻害されてきました。そこで、今回の法整備では、「ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を、他人の土地に設置する権利」を明確化し、隣地所有者が不明の状態でも対応できる仕組みが設けられます。

以上のとおり、今回の改正では、不明所有者の財産権の保護とのバランスを取りながら、今まで利活用が阻害されてきた不動産をより積極的に活用できるようにするという観点から、新たな制度が設計されています。
 

7 最後に

 今回の法整備は、現実に発生している社会問題に対応すべく実施されたものですが、不明所有者の権利といった対立利益等に配慮しつつ、現実的な解決策を提示して問題の解消に努めるものであり、概ね肯定的に評価できるものと思います。

 これらの法律は、令和5年4月以降、順次施行されることになりますが、不動産の管理・処分、相続といった実務上の重要分野に関わる法整備であり、実際の制度の運用に当たっては様々な問題が生じることも考えられます。今後とも、運用や動向について注視していきたいと思います。
 

(文責 弁護士 木村康介)

ページのトップへ