ニュース

弁護士渡邉 迅が「スポーツ団体のガバナンスコード」を投稿しました

2019年1月7日

「スポーツ団体のガバナンスコード」
 
第1 はじめに

2018年は,日本大学の悪質タックル問題,日本ボクシング連盟の助成金不正流用問題,日本レスリング協会のパワハラ問題など,スポーツ団体における不祥事が相次いだことを受けて,スポーツ庁は,2018年12月20日,「スポーツ・インテグリティの確保に向けたアクションプラン」(アクションプラン)を公表しましたので,その概要をご紹介いたします。

なお,日本スポーツ振興センター(JSC)のHPによれば,「『スポーツ・インテグリティ』とは,『スポーツが様々な脅威により欠けるところなく,価値ある高潔な状態』を指します。JSCは,2014年から『スポーツ・インテグリティ・ユニット』を設置し,八百長・違法賭博,ガバナンス欠如,暴力,ドーピング等の様々な脅威から,Sport Integrity(スポーツにおける誠実性・健全性・高潔性)を守る取組を実施しています。」と解説されておりますので,スポーツ団体におけるコンプライアンスの徹底,ガバナンスの向上とほぼ同義に捉えてよいと思います。

 
第2 アクションプランの概要

アクションプランの概要は,以下のとおりです。

1.スポーツ団体における適正なガバナンスの確保

(1)「スポーツ団体ガバナンスコード」の策定,スポーツ審議会における審議

(2)スポーツ団体によるコードの遵守に係る「自己説明―公表」の促進

(3)中央競技団体に対するコードに基づく適合性審査に係る助言

(4)「スポーツ政策推進に関する円卓会議」の設置

(5)中央競技団体に対するモニタリングの実施

(6)ガバナンス問題に係る第三者調査支援制度の創設

(7)中央競技団体の経営基盤の強化

(8)スポーツ団体への公的支援と適合性審査との連携等
 
2.スポーツを行う者の権利利益の保護

(1) 指導者等の資質・能力の向上及び教育・啓発活動の促進

(2) 相談窓口の設置及び活用の促進

(3) スポーツ仲裁自動応諾条項の採択促進及び仲裁に係る人材育成
 
第3 スポーツ団体ガバナンスコードの策定

1 スポーツ団体ガバナンスコードとは

上記アクションプランの中でも特に注目されているのが,「スポーツ団体

ガバナンスコード」(コード)の策定です。

アクションプランによれば,スポーツ庁は「スポーツ団体における自ら遵守すべき基準の作成に資するよう(スポーツ基本法第5条第2項),2019年春頃を目途にスポーツ団体が遵守すべき原則・規範を定めたコードを制定・公表する,これに先立ち,2018年度中に,スポーツ審議会においてコードの内容等についての専門的な検討を行うことし,その検討に当たっては,スポーツ団体のガバナンスに関する既存の参考指針等を参考にするとともに,スポーツ団体の中には人的・財政的基盤が極めて脆弱なところも多いことに鑑み,一定の柔軟性を有したものとするよう留意する」とされています。

従来,スポーツ団体において不祥事が頻発する原因の一つとして,会社における会社法等の強制規範がないため,適正な組織運営に関するルールが不整備であることが指摘されておりました。スポーツ基本法第5条2項においても,各団体に自主的なルール作成の努力義務が課されるのみであり,人的・財政的基盤が脆弱な団体においては,自主的ルールの作成・運用は進んでいないのが現状といえます。その点で,スポーツ庁が初めてスポーツ団体が遵守すべき統一的な規範を定める点で画期的な試みといえますが,その実効性をどのように確保するのか,また,人的・財政的基盤が脆弱な団体にはどの程度の柔軟性を認めるのかが課題になりそうです(一律に全てのルールの遵守を求めた場合,現実的に運用できない団体が少なからず生じることが想定されるため)。
 
2 コードの内容

⑴ 既存の指針

報道によれば,上場企業が守るべき行動規範を示した「コーポレート・ガバナンスコード」を参考にするものとされていますが,その具体的な内容は現時点では未定です。

もっとも,アクションプランには「スポーツ団体のガバナンスに関する既存の指針」を参考にするとあるので,例えば,日本スポーツ仲裁機構作成の「スポーツ界におけるコンプライアンス強化ガイドライン」,「NF組織運営におけるフェアプレーガイドライン」等の内容が参考にされるものと思われます。具体的には,コンプライアンス推進組織の設置,弁護士,会計士,学識経験者など外部有識者の選出,懲罰制度の構築,内部通報制度の導入,紛争解決制度の構築(日本スポーツ仲裁機構の仲裁手続に関する自動応諾条項など),危機管理マニュアルの策定,役職員及び選手・指導者向けのコンプライアンス教育の実施などが挙げられます。
 
⑵ 「自己説明―公表」の促進

アクションプランでは,コードの実効性を確保するため,スポーツ団体自らがコードを遵守している旨を説明し,公表する「自己説明―公表」を促すとしています。さらに,この「自己説明―公表」の有無を助成金の配分において考慮することにより実効性を高めるとされています。これは,コーポレート・ガバナンスコードにおける「コンプライ・オア・エクスプレイン」(コードを遵守するか,遵守しない場合はその理由を説明すべきというルール)を参考にして,実効性の確保と柔軟な運用のバランスを取ったものと思われます。
 
⑶ 第三者調査支援制度の創設

また,アクションプランにおける新たな試みとして,不祥事事案発生時に,第三者調査等が必要な不祥事事案発生時に,JSCにおいて,中立性,公正性及び専門性が確保された第三者調査機能を担う「スポーツ団体ガバナンス調査支援パネル(仮称)」を設置し,必要な調査支援等を行う仕組みを2019年度中に創設し,2020年度以降,本格実施するとしております。

これは,不祥事事案では,弁護士等外部有識者により構成される第三者委員会による原因究明及び再発防止策の策定が有効である一方,調査費用が負担できない団体もあり,また,委員の選定が中立性を欠く場合もあるなどの問題もあったため,調査費用の負担を軽減しつつ,中立・公正な第三者調査を実現するための制度です。
 
第4 最後に

コードの制定・公表は,2019年春頃になる予定ですので,スポーツ団体の関係者は,スポーツ審議会における議論を注視する必要があります。
 
(文責 弁護士 渡邉 迅)

ページのトップへ